逆さ地蔵/割れ地蔵
【さかさじぞう/われじぞう】
福井県の敦賀と滋賀県の大津を結び、琵琶湖の西岸を通るのが国道161号線、通称「西近江路」である。敦賀市を起点とするこの国道は、約3kmほど国道8号線と重複し、県境近くで西と東に離合する。この離合地点から敦賀寄りに約1km弱戻ったあたりに市橋という集落がある。国道の市橋交差点を北側に折れて入った川沿いに20軒あまりの家が固まっている。
集落の真ん中を東西に走る生活道路があるが、その東西の端には2体の地蔵が祀られている。あたかもこの集落に出入りするものを見守り続けている感があるが、この2体の地蔵にはそれぞれ奇妙な伝説が残されている。
集落の東端にあるのが“逆さ地蔵”である。その名の通り、上下逆の姿で祀られている。国道市橋交差点から集落へ向かう途中に橋が架かっており、その手前で道が直角に近い曲がり方をしている。実際昔からここを通る人畜が転落する事故が起こるものの、決して死ぬような大事には至らないという。これは地蔵が逆さで居続ける苦行をしているための功徳であるとされる。またある時、工事関係者が気を使って地蔵を正立の状態にして祀ったところ、たちまち体調を崩した。そこで元の逆さの状態に直すとあっという間に治ったとの話も残る。
一方西端にあるのが“割れ地蔵”である。こちらは地蔵が彫られた岩がほぼ真っ二つに割れていることから名が付いた。ある石工が川の中にあった大石を割ったところ、突然身体が痺れて動かなくなった。他の者が石をひっくり返すと、裏側に地蔵が彫られており、その一部が割られてしまっている。地蔵を粗末にした罰と思った者が慌てて割れた石を繋ぎ合わせて祀ったところ、石工はすぐに元に戻ったという。また大水などで溺死者が出ると、必ず割れ地蔵の前あたりで見つかるのだという。
市橋の集落の者は、この2体の地蔵によって土地が守られているため平穏無事に暮らせるのだと信じており、今なお大切に祀っている。
アクセス:福井県敦賀市市橋