芋井戸

【いもいど】

房総半島の南端にある土地でも、弘法大師の伝説は残されている。全国を行脚する大師が土地の者に施しを願い、それに対して親切にした者には幸いをもたらし、邪険に扱った者にはそれ相応の報いを与えるという伝説である。

ある老婆が芋を洗っていると、旅の僧が「芋を分けてもらえないか」と尋ねた。老婆は芋を与えるのを惜しんで「この芋は石のように堅くて食べられない」と答えた。そして家に帰って芋を煮て食べようとすると、本当に石のように堅くなってしまっていた。怒った老婆はその芋を道端に捨ててしまうが、そこから水が湧き出て、芋は芽を吹き出したのである。驚いた老婆は改心し、この旅の僧が弘法大師であると知ったのである。

いわゆる“石芋(食わず芋)”伝説と呼ばれるパターンなのであるが、芋を捨てたところから水が湧き出るという展開は他にまず例がなく、非常に珍しい話であると言える。現在でもこの霊泉は滾々と水を湧きだしており、今でも伝承通り、芋の葉を繁らせている。

<用語解説>
◆石芋伝説
堅くて食べられない芋が育ってしまう地域に残される伝承。パターンとしては、旅の僧への施しを嫌がったために芋が食べられないものに成り果ててしまったという内容であり、旅の僧の正体はたいていは弘法大師となっている(日蓮である場合もある)。その他、実を付けない作物の話や、湧き水が絶えてしまった話などの変形もある。いずれもその土地特有の悪条件の由来を示した内容である。

アクセス:千葉県南房総市白浜町