八右衛門出口湧水

【はちえもんでぐちゆうすい】

北杜市は、環境省の「名水百選」に２箇所も指定されるほど、湧水の町として名高い。また選に漏れた湧水にも著名なものが幾つかあるが、変わった伝説を持つ湧水と言えば八右衛門出口湧水となるだろう。

昔、谷戸八右衛門という猟師がこの地に住んでおり、ある時、山へ狩りに出たがその途中、自然発火による山火事が起こった。火に巻き込まれないようからがら逃げていると、一本の木に小さな蛇が巻き付いているのを見つけた。放っておくと焼け死ぬだろうと思った八右衛門は、持っていた弓を伸ばして「助けてやるから、この弓に絡まれ」と言うと、小蛇は人語を解したようにするすると弓に移り、助けられたのである。

数日後、八右衛門が寝ていると、枕元に大蛇が現れた。そして「先日の山火事の際には命を救われた。お礼にこの楊枝をさし上げよう。これを地面に差すと水が湧くので大切に使いなさい」と言うと大蛇は消え去り、枕元に一本の小さな楊枝が残された。

夢ではなかろうと思った八右衛門は、早速裏山に行って楊枝を地面に差したところ、たちまち澄んだ水が地面から溢れてきた。この土地は水の利が悪いため難儀していたが、この湧水によって集落の者が潤うこととなったのである。今でもこの湧水は枯れることはなく、また木の根元から水が湧いてくるが、この木は地面に差した楊枝が成長したものであるとも言われている。