島田地蔵寺 毛替地蔵
【しまだじぞうじ けがえじぞう】
かつて尾張国に熊坂長範という大盗賊が居を構え、近隣諸国を股にかけて盗みを働いていた。ある時長者の屋敷から多くの名馬を盗んできた。市に売りに出して金に換えようと考えたが、名馬として広く知られた馬である。市に出せばたちどころに盗んできた馬だと分かってしまう。しかしいつまでも自分のところに置いて養うわけにもいかず、さすがに長範も困ってしまった。
すると尾張から三河へ通じる街道沿いに、毛の悩みなら何でも聞いてくれる地蔵があるとの噂を耳にした。夜半に馬を連れて地蔵の前まで来た長範は、一心に祈り続けた。そして最後に「馬を売った金は貧しい者に分け与えてやります」と願うと、いつの間にか馬の毛並みの色が次々と変わっていった。これを見た長範は喜び勇んで馬を残らず連れて行き大金と交換すると、地蔵との約束通り手に入れた大金を惜しみなく貧しい者の許に届けたのであった。
島田地蔵寺に安置されている、一丈六尺(約5m)の大きさの地蔵菩薩像がこの霊験あらたかな地蔵とされ、毛替地蔵の名で篤く信仰されている。この寺は嘉吉2年(1442年)創建。その後水害で倒壊したため明応9年(1500年)に再建され、その時に毛替地蔵と呼ばれていた地蔵を本尊として“地蔵寺”の寺号に改めた。
馬の毛並みを一変させた故事から髪質を変えるご利益があるとされ、美しい髪になるよう色街の芸妓らが熱心に参拝していたとのこと。今でも癖毛矯正の願い事で訪れる人もあるという。ただ“髪質を変える”ご利益のためか、薄毛のご利益はあまり聞かないとか。
<用語解説>
◆熊坂長範
伝説的な盗賊で、実在の人物ではないとされる。謡曲「烏帽子折」に登場し、源義経の敵として300近い手下を率いて美濃国青墓宿で大立ち回りを演じる。この中で、長範は人生最初の盗みは“伯父の馬を盗んだ”ことと語っており、この毛替地蔵の伝説と符合している。
◆もう一つの毛替地蔵伝説
住職によると、島田地蔵寺から西へ3km程離れた瑞穂区仁所町に残る伝説に以下のようなものがあるらしい。
戦国の折、戦に備えて農家から黒い馬を徴発することが度々あり、困った農民は馬の身体に米粉を掛けて白くすると、「島田の地蔵様が馬の毛の色を変えた」と役人に申し出た。すると役人は馬を徴発することなくそのまま黙って帰ったという。これもこの地蔵の霊験のあらたかさを示したものと言えるだろう。
アクセス:愛知県名古屋市天白区島田