珍蔵寺

【ちんぞうじ】

創建は寛正元年(1460年)。初めは金蔵寺という名であったが、後に現在の名となった。この寺には創建伝説として“鶴女房”の話が残されており、この種の伝承の中でも最も古いものの一つとされている。

正直者の金蔵という男が、ある時、1羽の鶴が縛られているところに出くわした。憐れに思った金蔵は、有り金をはたいて鶴を解き放して助けてやった。するとその夜、若くて美しい女が訪れ、一夜の宿を請うた。そして女はそのまま金蔵の家に居着き、やがて夫婦となった。

しばらくして、妻は金蔵に「今からご恩返しにあるものを差し上げたいと思います。これから7日間部屋を覗かないで下さい」と言って、そのまま籠もってしまった。部屋からは昼も夜も織物をする音がするだけであったが、金蔵はだんだんと妻が何を織っているのかを見たいと思うようになった。そしてとうとう約束を破って、こっそりと部屋の中を覗いた。

部屋の中にいたのは、1羽の鶴。その鶴が自分の羽をむしり取り、それを織物にしていたのであった。金蔵が覗いていることに気付いた鶴は、自分が助けてもらった鶴であり、恩返しのために人間に化けたのだと正体を明かした。そして今織っているものは“曼荼羅”であり、これが自分の形見であると告げると、そのまま消えてしまった。

金蔵は妻との約束を破ったことを恥じて出家した。そして残された布を納める寺院を建てた。それが金蔵寺であり、鶴の織った布を寺宝とするために“鶴布山珍蔵寺”という名となったとされる。

残念ながら鶴の織った布は火災によって既にないが、古刹の禅寺の風格を残した趣のある寺院である。

アクセス:山形県南陽市漆山