猫地蔵
【ねこじぞう】
今から200年以上昔のこと。ある家で1匹の猫が飼われていたが、その家の妻が厠へ行こうとするとしつこいほど付いてくる。妻に猫が懸想したのではないかと疑った夫は、思いあまって厠へ入ろうとする猫の首を刎ねてしまった。すると首は宙を舞い、厠の屋根に潜んでいた蛇の頭に噛み付いて殺してしまった。そこに至って家人達は飼い猫が蛇から妻を守っていたことに気付き、供養のために造ったのがこの“猫地蔵”であるとされる。
猫や犬が命懸けで飼い主を守るという、典型的な動物報恩の伝説に由来する地蔵であるが、寺に納められることなく、現在も個人宅の敷地内に安置されている。敷地に入ったすぐ脇にある、トタン屋根の小屋の中に地蔵はある(小屋の横には“猫地蔵”と彫られた大石が置かれている)。中を覗くと地蔵だけではなく、いろいろな道具などがあって、おそらく物置としても使われているようである。しかし、その一番奥まったところにある地蔵は彩色された赤色もしっかりと残っており、非常に大切に守られてきたことが分かる。ちなみにこの小屋は、元あった屋敷で地蔵が祀られていた場所に建てられたもので、現家屋内に祀っているとそこだけ雨漏りがするため、わざわざ小屋を設けて地蔵を移したらしい。
かつて秩父地方は養蚕の一大生産地として栄えており、特に明治から大正時代にかけて、この地蔵は猫との関連性があることから鼠除けのご利益があるとされ、大勢の祈願者が訪れたという。また養蚕が下火になってからは“猫を護る”ご利益があると言われ、実際に飼い猫がいなくなった時にここで祈願したら戻ってきたという話があるとのこと。
<用語解説>
◆猫の報恩譚
飼い猫が主人を護るものの逆に疑われて殺されるが、最期に害をなすものを退治するという伝説パターンは全国各地に残されている。代表的な伝承地としては、山形県高畠町の猫の宮、東京都豊島区の西方寺などが挙げられる。
なお、この話の原型となると考えられるのが“忠犬で説”であり、最も古い物では滋賀県多賀町の大瀧神社に残る、日本武尊の第一皇子・稲依別王と忠犬・小石丸のの伝説がある。
アクセス:埼玉県秩父郡長瀞町本野上