白瀧神社

【しらたきじんじゃ】

「西の西陣、東の桐生」と言われるほど、桐生は織物業が盛んな町である。その起源は奈良時代にまで遡ることが可能で、和銅7年(714年)に上野国から“あしぎぬ”と呼ばれる布が献上されたと『続日本紀』に記されている。そのような歴史の中で一際有名な伝説が、“白滝姫と山田男”の恋の話である。

桓武天皇の御代(781-806年)、上野国山田郡(桐生市周辺)で生まれた男が、一念発起して都へ出て朝廷に仕えた。ある時、男はたまたま一人の姫(官女とも公卿の娘とも)を見かけ、一目惚れした。姫の名は白滝姫。しかし男の恋は身分違いの恋であり、叶えられるものではなかった。それでも諦めきれない男はしばしば姫を遠くから眺めていたのだろう。ある日、男に身分の差を思い知らせるかのように、姫は戯れるように一首詠んだ。
――須弥山の 山より高く 咲く花を 心がけるな 山田奴め
それに対して、教養がないと思われた男が即座に歌を返した。
――日照りにて 山田の稲も 枯れ果つる 落ちて流れよ 白滝の水
この返歌を聞いた姫は、男の才能に驚き、たちまち恋に落ちたのである。噂はあっという間に宮中に広がり、その相思相愛ぶり故に男は朝廷の許しを得て白滝姫を妻として、共に上野国の故郷へ帰ることとなったのである。

上野国に住むようになった白滝姫は土地に馴染んでいき、やがて村人に都で覚えた機織の技術を教えるようになった。すると村の女の多くが機織をするようになり、あっという間に織物がこの土地の名産となった。また白滝姫は、織物の神である天之八千々姫命を祀る神社を建てた。これが現在の白瀧神社の創始であり、後年に白滝姫も神として祀られるようになったのである。

なお境内には「降臨石」と呼ばれる巨石がある。七夕の日に空から落ちてきた星であると言い伝えられ、直接石に耳を当てると機織や糸繰りの音がするとして大変信仰されていた。ところがある時不心得者が土足で石の上に登ったため、全く音がしなくなったという。

<用語解説>
◆「白滝姫と山田男」の伝説
“山田”という里から都に上ってきた男が、やんごとなき姫を見そめて、再び郷里へ帰って暮らすという伝承は、桐生以外にも残されている。
代表的なものとして、神戸市北区山田町に残る伝説(栗花落の井)、富山県富山市山田鎌倉に残る伝説などがある。ただし織物と直接関係する伝説は桐生のもののみである。

アクセス:群馬県桐生市川内町