神居古潭

【かむいこたん】

旭川市内の南西部、国道12号に沿って石狩川が流れる景勝地が神居古潭である。その名はアイヌ語の「カムイ=神」と「コタン=村」が合わさったものであり、アイヌにとっての聖地である。

この付近は石狩川が上川盆地から石狩平野に抜け出る部分であり、川幅が細く急であるために水上交通の難所であり(行き来する船が遭難することが多く、アイヌはここで祈りを捧げてお供えするらしい)、またその流れによって両岸に大きな奇岩や甌穴群(浸食によって丸い穴が開く)が多数見られる。そのような地形であることから、次のような伝承がアイヌに伝わったと推測される。

はるか昔、この地にニッネカムイ(「ニッネ」は悪の意)という魔神がいた。ある時ニッネカムイは、人々が平和に暮らしていることを妬み、川に巨石を投げ入れて鮭の遡上を止め、人々の村に洪水が起こるよう仕向けた。それを見た山の神の熊は阻止しようとして、ニッネカムイと争った。しかし山の神は劣勢に立たされる。そこへ妹神から知らせを聞いた、英雄神サマイクルが山の神の応援に駆け付け、激闘となった。はじめはサマイクルの刀をかわしていたニッネカムイであったが、やがて砦に追い詰められてしまう。そして窮地に立った魔神は川に向かって飛び降りたのだが、両足がめり込んでしまって身動きが取れなくなる。サマイクルはここぞとばかり刀を振るうが、魔神は深手を負いながらも上流へと逃げていく。だが、ほとんど抵抗する力を失ったニッネカムイは、少しばかり上流でついに首を刎ねられてしまったのである。首は川岸に落ちて岩と化し胴体も立ち尽くしたまま石化してしまった。

ニッネカムイの砦と言われる巨岩が、吊り橋から臨める「カムイ岩」である。また魔神の首と呼ばれる岩も残されている。しかしながらニッネカムイが飛び降りた際につけられたという2つの巨大な穴(甌穴)とサマイクルの刀傷の残る岩は国道の拡幅工事のために土砂に埋まってしまったとのこと。また魔神の首の対岸にあった魔神の胴体も同じ工事で削られてしまったという。

<用語解説>
◆サマイクル
アイヌ伝承の創造神。オキクルミと共に英雄神とされる(兄弟・一族であったりライバルであったりとさまざまなシチュエーションで語られるが、定説はない)。またオキクルミよりも粗野で愚昧とされるが、これもエリアによっては異なる。旭川周辺の伝承では、サマイクルが創造神であり、英雄神とみなされている。

アクセス:北海道旭川市神居町神居古潭