ケサランパサラン
【けさらんぱさらん】
鶴岡市にある加茂水族館はクラゲの展示で有名であるが、その展示品の一角に置かれているのがケサランパサランである。
このケサランパサランという存在であるが、おそらく江戸時代にはある程度認知されていたとみられる。東北地方、特に山形県庄内地方では“福をもたらす”ものとして珍重されていた。これを見つけた者は家宝として管理し、家の繁栄を願って代々継承するとされる。全国的にその名が知られるようになったのは、1970年代半ば過ぎ。朝日新聞の地方版にトピックとして掲載され、そこからテレビなどに取り上げられるようになったと言われる。
ケサランパサランの管理方法には一定の決まりがある。少量の白粉と共に桐の小箱に入れて、神棚に祀っておく(あるいは箪笥にしまうなど)という。そして年に一度だけしか見てはならない、二度見ると福をもたらす効力を失う、家族以外の人が見ると効力を失うと言い伝えられている。
福をもたらす不思議な力もさることながら、このケサランパサランそのものが謎に満ちている。まず生きているものなのかどうかで意見が分かれる。桐箱に少量の白粉を入れるのは、それが“食料”であるため。そして実際につがいで箱に入れて数年後に見たところ、小さなケサランパサランがいくつか増えていたという話がテレビで報じられている。
さらにケサランパサランには2つの系統があり、動物系と植物系に分類できる。動物系のものは“ウサギの尻尾”のような白くて丸い毛玉のような形、植物系のものは“タンポポの綿毛”のような白い毛が放射状になった形をそれぞれしている。そのため前者は猛禽類が吐き出したペレット、後者は毛足の長いアザミなどの種子がとれた綿毛であると推測されることが多い。ただ個々の個体について調査されたわけではないので、全てがこれらのものであるとは断定できないだろう。
加茂水族館にあるケサランパサランはいわゆる“動物系”のものである。寄贈者は、この水族館の館長であった村上龍男。渓流釣りをしていた時に、ブナの木の根元に2つ並んでいるところを発見して持ち帰ったものである。当時の加茂水族館は入館者数が過去最低を記録するなど、最大の危機に瀕していた。ところがこのケサランパサラン発見後、偶然珊瑚に付着していたサカサクラゲの展示を始めたのをきっかけに、クラゲの飼育と展示に特化した運営をおこない、世界でも類を見ない水族館として人気を博している。
<用語解説>
◆鶴岡市立加茂水族館
昭和31年(1956年)開館。第三セクターへの払い下げ、経営悪化による閉鎖、職員が金策して餌代捻出、さらに民間企業により再開館という経緯をたどる。平成9年(1997年)、過去最低の入館者数を記録するも、クラゲの展示を開始。その後「クラゲ食」で注目を集め、さらにクラゲの展示種類数で世界一になるなど、クラゲ展示の水族館として名を馳せる。
◆村上龍男
1939-。昭和42年(1967年)より加茂水族館の館長を務める。平成27年(2015年)退任。現在は水族館名誉館長。
アクセス:山形県鶴岡市今泉大久保(鶴岡市立加茂水族館)