お松大権現
【おまつだいごんげん】
「日本三大怪猫伝」といえば、肥前鍋島・久留米有馬ときて岡崎の化け猫を挙げることが多いが、岡崎の話は全くのフィクションであるので、史実との兼ね合いで言えばやはり阿波の化け猫騒動の方がしっくりくるだろう。この騒動の中心となったのが阿南市にあるお松大権現である。まさに猫尽くしの場所であり、境内所狭しと猫の置物が並べられ、屋根の上にも魔除けの猫、さらには紋所まで猫である。
貞享年間(1684~1687年)、加茂村の庄屋・惣兵衛は不作の村を救うために私有地の五反の田地を担保にして、富商の野上三左衛門から金を借りた。惣兵衛は期日前に金を返したが、道すがらのことでその場で証文を受け取らず、その直後に病死する。
惣兵衛の妻のお松は三左衛門に証文を返すように催促するが、三左衛門は金を返すどころか、逆に金を受け取っていないと主張して五反田地を奪い取る。お松は奉行の長谷川越前に訴え出るが、美貌に目を付けた越前に言い寄られるも拒絶、さらに三左衛門も賄賂を送っていたために、結局理不尽な裁定しか下されなかった。
思い余ったお松は最後の手段として藩侯に直訴。しかしそこでも願いは叶わず、死罪となってしまった。死に際してお松は愛猫の玉(三毛)に遺恨を伝え、その後、三左衛門と奉行の許に怪猫が現れるなどの怪異が相次いで起こり、ついには両家とも断絶してしまったという。
他の化け猫騒動と違うのは、阿波の騒動だけは遺恨を晴らすことに成功している点である。そのためなのか、神として祀られているのはここだけである。今なお訴訟必勝などの勝負事の神として信仰を集めていると言える。
ちなみに、この話の発端となった「五反田地」であるが、その後も開墾すると変事が起こるために更地となっており、現在は参拝者の臨時駐車場という名目で神社が所有している。
アクセス:徳島県阿南市加茂町不ケ