嫁威し谷

【よめおどしたに】

県道29号線は、あわらの市街地から吉崎御坊へ向かう内陸部の幹線道路である。その道の途中にあるのが嫁威という名の集落である。この地が“肉付きの面”で有名な伝説の舞台である。

十楽村に住む清という女性は、夫と2人の息子に先立たれ、年老いた姑と暮らしていた。清は昼はまめまめしく働き、夜になると吉崎の蓮如上人の許へ説教を聞きに行った。ところがこの夜に吉崎へ行くのが気に入らないのが姑である。何とかして行かせまいと一計を案じたのが、家伝の鬼の面をかぶって嫁を脅すことであった。

途中の谷で待ち伏せた姑は見事に嫁を脅したが、嫁は驚きつつも「食まば食べ 喰わば喰え金剛の 他力の信はよもやはむまじ」と口ずさんで吉崎へ行ってしまった。満足した姑は家に戻って面を取ろうとしたが、取れない。それどころか身体が痺れていうことを聞かない。

嫁が戻ってきて、恥を忍んで助けを求めると、嫁は念仏を唱えよと勧めた。そこで姑が「南無阿弥陀仏」を唱えると面が取れたのである。2人は蓮如の許へ行き、ことの顛末を語って面を献じたのである。

姑が鬼になりすまして嫁を脅した場所が“嫁威”という地名になって残っている。ちょうど八幡神社があり、その境内には伝承を示す石碑が置かれている(一説によると、姑がつけた面は、この八幡神社に奉納されていたものであるとも言われる)。また境内の端は切り立った崖になっており、伝承通りこの付近は谷地となっている。

アクセス:福井県あわら市嫁威