桜ヶ池

【さくらがいけ】

面積約2万㎡の堰止め湖である。三方を鬱蒼とした林に囲まれた様子はかなり神秘的である。

池のほとりには池宮神社がある。祭神は瀬織津姫であり、敏達天皇13年(584年)にこの池に現れたため神社が創建されたされる。この神社の行事としておこなわれるのが「おひつ納め」である。これは祭神の一柱である皇円阿闍梨にまつわるものであり、遠州七不思議として数えられる。

皇円阿闍梨は天台宗の高僧であり、浄土宗の開祖・法然の師匠として知られる。皇円は、釈迦入滅より56億7千万年後に弥勒菩薩が衆生を救う時まで、菩薩行をおこなって衆生を救いたいという願いを立てる。そのために人よりも遙かに寿命の長い龍に化身することを欲し、この桜ヶ池に入水寂滅するのである。

数年後、弟子の法然は師を偲んでこの地を訪れた。そして桧のお櫃に赤飯を詰めたものを池の中心まで運んで投げ入れた。それ以降、法然の弟子の親鸞や熊谷蓮生房などが継承して今に伝わる奇祭となった。現在でも9月23日におこなわれ、直径40cmの桧のお櫃に4升5合の赤飯を詰めて池に投じられる。おひつ納めの神事は約2時間、100個前後のお櫃が沈められるとのことである。

この奇祭の不思議なところは、沈められたお櫃が数日後には空になって必ず浮き上がってくることである(浮き上がってきたお櫃は奉納した人に下げ渡されるとのこと)。さらにこの池は底なしであり、諏訪湖に繋がっているという伝説がある。そのために、沈められたお櫃が諏訪湖に浮かび上がってきたことがかつてあったとも言い伝えられている。そして皇円が変じた龍は諏訪湖に訪れることがあり、7年に一度だけ出現するという池の平の幻の池が、龍が途中で休むために現れるのだとされている。

<用語解説>
◆瀬織津姫
大祓詞に登場する神で祓戸四神とされ、災厄を払う神である。しかし記紀に登場しない神であり、謎の多い神である。一説では、天照大神の荒御魂(向津姫)ともされる。災厄を払う神であるため、川などの水辺に祀られることが多い。

◆皇円
1074?-1169。肥後の出身。比叡山で修行した名僧で、弟子三千人とも言われた。また日本仏教史の基礎資料として名高い『扶桑略記』を編纂している。

◆遠州七不思議
桜ヶ池の他に、小夜中山の夜泣き石、大興寺の子生まれ石、池の平の幻の池、遠州灘の波小僧、天龍の京丸牡丹、掛川の無間の鐘などがある。

アクセス:静岡県御前崎市佐倉