安吉橋(安義橋)

【あぎばし】

県道14号線の日野川に架かる橋である。現在は安吉橋と表記されるが、かつては安義橋と書かれていた。この橋は平安時代には既に架けられており、そして鬼の出る場所として知られていた。

『今昔物語集』巻二十七の「近江国安義橋鬼人噉(喰)語」にその怪異が書かれている。

近江守の従者の若者達がくつろいでいる時に「安義橋を渡る者がいない」という話から、一人の者が「館で一番の馬があれば渡ってみせよう」と豪語したため、行く羽目になる。仕方なく男は馬を借りてその尻に油を塗ると、橋に赴いた。夕暮れ近くに橋に着くと、人影は見えない。怖々橋を渡ると、中ほどに女官の姿があった。人ではないと思い駆け抜けようとすると、女が声を掛ける。無視して逃げるように駆けると、女は鬼の姿に変わって追ってきた。身の丈は九尺(約3m)もあって緑青の色、顔は朱色で丸い目が一つ、指は三本でその爪は五寸(約15cm)もある、恐ろしい様子である。鬼は何度も馬を捕まえようとしたが、尻に油が塗ってあったために、とうとう捕らえることが出来なかった。そして「逃げたとしても会わぬことはない」と言って消えた。

命拾いした男は館に逃げ帰り、鬼の様子を話した。そして褒美に馬を貰って帰った。その後、男の家では怪事が起こったため占ってみると、鬼の祟りがあるので物忌みをせよと言われる。物忌みの日の夕刻、奥州にいた弟が戻ってくる。最初は物忌みを理由に拒んだが、母親の死を伝えに来たという弟の言葉に心を動かされ対面した。やがて男の部屋から取っ組み合いの喧嘩をする物音がするので、妻が駆けつける。男が弟を組み敷いて「刀を持ってこい」と妻に命じる。しかし兄弟喧嘩と思った妻は応じない。ほどなく今度は弟が上になると、いきなり男の首を食いちぎってしまった。そして妻の方を振り向いて「うれし」と言って消えてしまった。その顔はまさに夫が安義橋で見たという鬼の顔そのものであった。

物語の最後には、その後様々な修法をおこなったことで、橋には鬼が現れなくなったということが付け加えられている。

<用語解説>
◆『今昔物語集』
平安時代末期に成立したとされる説話集。巻二十七は国内の怪異譚をまとめたものとなっている。

アクセス:滋賀県近江八幡市倉橋部町・蒲生郡竜王町弓削