妙多羅天堂

【みょうたらてんどう】

妙多羅天は悪霊退散の神、縁結びの神、子供などの守護神として祀られる神である。高畠町にもその神を祀る堂があり、以下のような伝説が残されている。

平安時代末期、一本柳の地に安倍貞任の一族である度会弥三郎とその母の岩井戸があった。弥三郎は妻を娶ると御家再興のための武者修行の旅に出たが、間もなく妻と生まれてきた子は病で亡くなり、一人残された岩井戸は悲しみのあまりに鬼女となりながら、狼を操って旅人を襲い金品を奪うことで、御家再興の軍資金を蓄えていた。

弥三郎が故郷へ戻り近くの橋に差し掛かると、狼が襲ってきた。弥三郎はそれを退治しつつ、操っていると思われる鬼女の右腕を切り落とした。そして腕をたずさえて我が家に辿り着くと、そこには床に伏せった母親のみ。母は涙ながらに妻子の死と軍資金のことを語り、弥三郎は武者修行のことと先ほどの橋での出来事を語った。そして切り落とした腕を見せると、母はいきなり鬼女を化してそれを取り上げると、天高く飛び去って弥彦山へ赴いた。その後、鬼女は前非を悔い改めて善神となったという。(その他にも、戦国時代の話であり、岩井戸は元は天女であったという伝承もある)

高畠にある妙多羅天堂は、弥三郎が後に屋敷内に母の供養のために作ったものと言われている。また鬼女が狼を使って旅人などを襲っていた橋は「おっかな橋」と呼ばれ、現在でもその名が残されている。

<用語解説>
◆妙多羅天と弥彦山
弥彦には「弥三郎婆」という、全く異なるシチュエーションの伝承が残されている。ただし最終的に鬼女が改心して善神である妙多羅天となる結末は同じであり、また妙多羅天が信仰されている地域も新潟と山形にほぼ限られていることから、おそらく関連性が高い伝承であることは間違いないところである。
ただし高畠の伝承には、鬼の腕を切り落として取り返されるす話、狼の頭目として老女が登場する話など、別種の伝承が付け加えられていると言える。

アクセス:山形県東置賜郡高畠町一本柳