黄泉比良坂

【よもつひらさか】

黄泉比良坂と言えば、ある程度神話に通じている者ならば、この名称が現世と冥界との境界線の名であることはわかるであろう。『古事記』によると、妻のイザナミに会いに黄泉の国へ訪れたイザナギは、約束を破ったために腐り果てた死体のイザナミを見てしまう。怒ったイザナミはイザナギを追いかけ、イザナギは命からがら黄泉の国を脱出する。そしてこの世とあの世の境界線に大岩(千曳の岩)を置き、行き来出来ないようにしたという。 この伝説の地が黄泉比良坂なのである。

現地に到着すると、まず目に付くのが伝承地として認定されたことを示す碑である(設立は昭和15年、紀元2600年である)。そして奥にある千曳の岩へと近寄っていく。

想像していたのは、大きな岩にふさがれた洞窟のようなものの存在であった。しかし、岩の向こう側には林のようなものが広がっているだけであり、特に何か 変わったものがあるわけではない。どうも黄泉の国の入り口は、洞窟のようなものではなかったらしい。

ちなみに、この黄泉比良坂の近くには、イザナミを主神とする揖夜神社がある。とにかくこの辺りには“死”にまつわる伝説があったことは間違いないところのようである。

<用語解説>
◆黄泉の国
日本神話における、死者の住む土地を指す。現世とは黄泉比良坂によって繋がっている。通常地底にあると考えられるが、『古事記』ではイザナギは黄泉比良坂を下って逃げたと思われる記述もある。別名「根の国」。(ただし両者を別世界とみなす説もあり)

◆揖屋(いや)神社
主神は伊弉冉尊(イザナミ)など。イザナギとイザナミが千曳の岩を挟んで最後に言葉を交わすのだが、その地を『古事記』では伊賦夜(いふや)坂とする。この「いや」の名称は他にも「熊野」の漢字を当てる。熊野三社がある和歌山県は、根の国に比定されている土地であり、いずれにせよ「死」にまつわる語であると推測出来る。

アクセス:島根県松江市東出雲町揖屋