麟祥院

【りんしょういん】

鹿児島県の霧島山にある大浪池には、白蛇の化身であった“お浪”の伝説が残されている。

子宝に恵まれない夫婦が水神に祈願して授かった娘がお浪である。年を経てお浪が年頃になると、両親が知らぬ間に家を抜け出してどこかへ出掛けるようになる。不審に思った父親が夜中に見張っていると、お浪がふらりと外へ出て白馬にまたがって消え去ってしまった。結局、事の真相を知られてしまったお浪は、自分の正体が大浪池の白蛇であることを告げて池の中に消えてしまうのであった。

この伝説は近隣各地に残されているが、麟祥院もその中の一つである。

大浪池に消えてしまった娘のことが忘れきれない両親は二人して池にまでやって来て、大声で娘の名を呼んだ。すると池の中からお浪が姿を見せ、これが最後の別れであると告げた。しかし両親はさらに名前を呼び続けたところ、再びお浪は姿を見せるが、目の前で大きな白蛇に姿を変えてしまったのである。その姿を見ると、さすがの両親も泣く泣く池を離れていった。

故郷に戻った両親は、池へ行くために杖代わりに使った銀杏の枝を寺に植えた。すると、その枝をみるみる大きくなり、立派な銀杏の大木になったという。

この銀杏の木が、麟祥院の境内にある銀杏であると伝わっている。現在、銀杏の木は幹周り約9m、高さ17mあまりの巨木となっており、麟祥院の別名である「銀杏の木寺」の由来ともなっている。さらにこの銀杏の木の根元あたりは大きな空洞となっており、観音菩薩が祀られている。その観音像をよく見ると、足元から腰にかけて一匹の蛇が絡みついているのがわかる。かつてお浪の両親は銀杏の木の根元に娘の墓をこしらえたと伝わっており、この観音像もお浪のために祀られているようである。

<用語解説>
◆大浪池
霧島山中、標高1200mのところにある火口湖。周囲約2kmある。お浪が変じた大蛇が棲むという言い伝えから大浪池と呼ばれるようになったともされる。

アクセス:宮崎県西都市白馬町