セタカムイ岩

【せたかむいいわ】

国道229号線は、小樽から積丹半島を経て江差まで通じる道である。古平(ふるびら)町は余市と積丹半島との間にある町であり、海岸線に沿って国道が続くエリアである。そしてその海岸線には多数の奇岩があることでも有名である。

セタカムイ岩は、余市町と古平町の町境に位置する豊浜トンネルの入り口近くにある。高さは約80メートル、このエリアの中でも一際有名な奇岩である。

セタカムイという言葉は、アイヌ語で“犬の神”という意味を持つ。遠くからだと、ちょうど犬が首を挙げて遠吠えしているような姿に見える。この形が名前の由来であることは間違いない。

現地の案内板で紹介されているものは以下の通りである。昔、ラルマキという若い漁師が犬と一緒に暮らしていた。ある日ラルマキは漁に出かけるが、大時化のために遭難して還らぬ人となってしまった。しかしそれを知らない犬は、飼い主の帰りを待って嵐の中を鳴き続けた。そして嵐がやんだ後、その犬は岩と化していたという。

また別の伝承がある。文化神であるオキクルミが狩りをした後に犬を置き去りにして去っていった。犬は後を追ったが、海に阻まれてしまいそこで主人恋しさに泣き続け、とうとう石になってしまったという。

さらにこんな伝承もある。源義経がこの地を去る時に飼っていた犬を置いていった。犬は後を追いすがったが、結局海辺で岩となってしまったという。

この岩の伝承は、飼い主はそれぞれ変わるが、いずれも飼い主に置き去りにされた犬が悲しさのあまり石と化してしまったというパターンとなっている。それだけ、海に向かってそそり立つこの岩が悲しく鳴き続ける犬の姿にそっくりであり、幾世代に渡って人々のイメージとして固着し続けた結果が、複数のバリエーションとして伝播されてきたことに繋がったのだろう。

アクセス:北海道古平郡古平町沖町