芦名(葦名)神社
【あしなじんじゃ】
「鹿角三姫」の一人に数えられる芦名姫にまつわる神社である。幹線道路や鉄道からかなり離れた小さな集落にあるが、かつては馬の神様として多くの参詣者があったと伝わる。
奈良時代の頃、このあたりに長者と豪族の2つの家があった。なぜか昔からこの家同士は仲が悪く、ことある度に諍いが絶えなかった。ところが、長者の息子と豪族の娘が相思相愛の仲となってしまった。当然、両家ともども二人の仲を認めず、互いに会わさないようにしたのである。
やがて豪族の娘は恋の病で寝たきりになってしまった。それを聞いた長者の息子は居ても立ってもおれず、ある夜、闇に紛れて豪族の屋敷を巡りながら、中の様子をうかがった。だが豪族の家来は、その不審な者の姿を見逃さなかったのである。
翌日、豪族の家では葬儀が執りおこなわれた。前夜に賊が忍び込み、病気の姫を殺害した。賊はその場で捕らえられ、打ち首にしてしまったという。豪族は娘の墓を造り、さらにそばに賊の墓も築いたのである。一方、これらの話を聞いた長者は、この賊の正体が自分の息子であると悟った。しかし仲が悪いとはいえ、他家の娘を殺してしまった以上は抗議をするわけにもいかず、泣き寝入りするしかなかった。
それから月日が経ち、二人の墓のそばに寺が建ち、そこに一人の女性が毎日経を上げに訪れるようになった。それは死んだはずの豪族の娘であった。
あの夜、長者の息子は捕らえられたが、二人の思いを理解した豪族が夫婦となることを認め、その代わり遠くへ旅に出て暮らすように命じたのである。さらに二人が死んだことにするために、実際に2頭の馬を生き埋めにして墓を築いたのであった。
一方、若い二人は旅立ち、しばらく仲むつまじく楽しく暮らしていた。しかし、息子の方が病気となり、亡くなってしまった。そこで娘は夫の葬儀を済ますと、結局故郷へ戻ってきたのである。そして事の真相を聞くと、自分たちの身代わりになって死んだ馬を憐れに思い、亡き夫の菩提を弔うと共に、馬の供養のために寺を建てて日参するようになったのである。
しばらくして娘も病に倒れて亡くなった。死の間際に、この寺を詣でた者には良い馬を授け幸せになれるようにしたいと言い残した。その後、全てを知り寺を訪れるようになっていた長者は、都へ行って十一面観音菩薩の像を求めた。そして像を本尊として堂宇を建立したのである。それが「芦名沢の観音様」と呼ばれ、良馬に恵まれるように参拝する者で賑わい、多くの絵馬が奉納されたという。
<用語解説>
◆鹿角三姫
鹿角地方に残る伝説の主人公である3人の女性。「だんぶり長者」の娘である吉祥姫、「錦木塚」伝説の政子姫、そして芦名姫である。この3つの伝説に関連性はなく、鹿角地方に伝わる話として観光振興のために一括りにされたようである。
アクセス:秋田県鹿角市十和田山根