生居の化け石

【なまいのばけいし】

山形県上山市の東部に位置する生居という場所には、七不思議と呼ばれるものがある。その筆頭に挙げられるのが“生居の化け石”である。

昔、生居のあたりは夜になると石の化け物が出るという噂で、人ひとり通る者がなかった。ある時、生居の庄屋である権左衛門が夜道を一人で歩いていると、石の化け物の声がした。「お願いします、お願いします」という声に権左衛門は気丈に「何の頼みだ」と尋ねる。「私には子供がたくさんおり、食べ物がなくて困っております。何か食べ物を下さい」と石が返答する。承知した権左衛門は家に帰ると、米一俵分の握り飯を作って石の前に置いた。すると無数の手が出てきて握り飯を全て平らげてしまい、「有り難うございます。お礼にこの石を差し上げます。この石がある限り、家も子孫も栄えることでしょう」と、小さな石を渡したのである。権左衛門はその小石を家の庭の池に沈めたのであるが、それ以来家は栄えることになった。

その話を聞いた上山の殿様は、その石を献上するように命じた。そして権左衛門が献上するのだが、明くる日になるとその石が池に戻ってしまっている。結局殿様もその石を献上させることを諦め、いまだに石は池の中にあるらしい。

この話だけであればただの伝説で終わるのだが、今なおこの庄屋の家が現存している。重要文化財・旧尾形家住宅は、この化け石のある場所から約500メートル東に行ったところにある。小石は現在も池の中に沈められた状態らしいが、昭和期に一度池の中をさらったところ、卵大の大きさの石が2つ出てきたという(その石はまた池に沈められたらしい)。また天保年間に大明神号を得たことを示す藩からの書状も保管されており、不思議な信憑性を持っている。

ちなみにこの地名である生居も、この化け石に関連していると言われ、声を発する化け石、そして子供が生まれる小石ということで、“生きている石”つまり生の石という言葉が変化して、今の生居という地名になったのだとされている。

<用語解説>
◆生居の七不思議
案内板によると、この化け石以外に「三度栗」「むかさり清水」「お花畑」「葉山権現と妙見菩薩」「ころころ清水」「明見坊と植えし松」とされる。ただし他の文献では別のものが挙げられているとのこと。

◆旧尾形家住宅
17世紀末に建てられた上層農家の建築物。尾形家は代々の庄屋である。昭和44年に重要文化財指定。入館料:大人200円。

アクセス:山形県上山市下生居字森