ひだる地蔵
【ひだるじぞう】
国道166号線沿い、宇陀市と東吉野村との境に佐倉峠がある。ここに平成14年(2002年)に移転して置かれたのが、ひだる地蔵である。
奈良県南部一帯で広く知られる伝説に、通称「ひだる神」と呼ばれる妖怪がいる。地域によっては「ダル」とか「ダリ」とか呼ばれているが、要するに行き倒れ者の亡魂で、これに取り憑かれると酷い空腹状態や疲労困憊状態に陥るとされる。ほとんどが山の中という地域、人の往来もさほど多くない街道筋で急病などで人が倒れてしまえばおそらく助からないだろうし、そういう死に方をした者の亡魂が取り憑くことは恐ろしいことであった。この「ダル神憑き」を防ぐには、「手に“米”の字を書いて呑み込む」といったまじない的なものから、より現実的な「一口大の握り飯を用意して憑かれたらそれを食べる」というものまで、さまざまな対処法が伝えられている。その中で、ダル神憑きにならないように祈願する地蔵を建立するというのは他に類似の話がなく、かなり珍しい対処法なのかもしれない。
地元の話では、この地蔵は旧街道沿いにあったものを、往来の多い国道沿いに移転したらしい。ただこの佐倉峠は昔からひだる神の出没しやすい場所であったようで(ダル神憑きが起こる場所は割と固定されていたようである)、おそらく街道の難所とされていたのであろう。しかし現在ではこの場所を徒歩で行き交う者はほとんどなく、むしろ車による事故を防ぐために置かれたような存在に見えた。
<用語解説>
◆ダル神憑きの科学的説明
この憑依現象についての最も有名な仮説は、ハンガーノックである。過度の運動によって急激な低血糖状態となる現象で、糖分補給で症状は回復する。峠のように長く上り坂を歩き続けるなどの行動は無意識のうちに過度の運動となる場合があり、ある程度怪異現象の説明がつくとされる。
アクセス:奈良県吉野郡東吉野村鷲家