観音寺

【かんのんじ】

気仙沼の港を見下ろす高台にある古刹である。天台宗に属し、全国に七寺のみという延暦寺根本中堂の「不滅の法灯」を分灯された寺院である(東北では山寺立石寺・平泉中尊寺と並んで三寺のみ)。この寺院には名前のごとく観音菩薩像が安置されているが、この像には1つの悲恋の伝説が残されている。

源義経がまだ鞍馬で修行に励んでいた頃、文武の師・鬼一法眼の娘である皆鶴姫とよしみを通じて、法眼の持つ兵法書『六韜』を盗み出した。そしてその書を携えて、金売り吉次と共に奥州藤原氏の許へ赴いたのである。

平泉に着いてしばらくして、義経は夢を見る。京都に残してきた皆鶴姫が奥州の母体田の浜に打ち上げられている夢である。不吉な知らせとばかりに義経は浜へ駆けつけると、人だかりができている。そばへ行くと、うつろ船に乗せられた皆鶴姫の亡骸があり、その手には観音像が握られていたのである。姫は父の法眼の怒りを買って、うつろ船で流されていたのである。事の真相を知った義経は、姫の冥福を祈るために観音像を観音寺に納めたという。またうつろ船の残骸の一部、義経の使っていた笈なども観音像と共に、観音寺に安置されている。

異説では、皆鶴姫を乗せたうつろ船が浜に漂着すると、高貴な人を助けて後難に巻き込まれるのを恐れた村人が幾度も船を沖に押し戻しているうちに姫は衰弱して亡くなったともいう。また衰弱した姫を老夫婦が助けて住まわせていると、数ヶ月後に義経の子を産んだが、産後の肥立ちが悪くて結局亡くなってしまったともいう。いずれの話でも、義経とは会えぬ運命で終わっている。

 

付記
皆鶴姫がうつろ船で漂着したという伝承地が、かつて弁天町の一景島公園にあった。しかし先の大震災の津波によって公園内にあった一景嶋神社もろとも流失してしまった。探訪した2012年7月の段階では、小さな祠だけがかつての神社あった場所に祀られていた。

<用語解説>
◆不滅の法灯
天台宗の総本山である延暦寺根本中堂にある、宗祖の最澄がともした灯明。現在でも決して消されることなく火を灯し続けている。織田信長の焼き討ちの際に根本中堂の火は途絶えたが、山寺立石寺の分灯を用いて再び灯し続けられている。

◆鬼一法眼
『義経記』に登場する伝説上の人物。一条堀川に住む陰陽師であり、文武に秀でており特に兵法の大家とされる。また剣術の京八流の祖とされている。

◆『六韜』
中国の兵法書。周の太公望が武王に授けた用兵の極意書とされる。「虎の巻」の語源となった書である。

アクセス:宮城県気仙沼市本町一丁目