貝喰池

【かいばみいけ】

貝喰池には古来より龍神の伝説があり、隣接する善寳寺に祀られている。

開基である妙達上人がこの地に庵を結び、日々法華経を唱えているうちに、近隣の者が大勢集まってそれに聞き入った。その中に人目を引く美しい男女の姿があった。ある時、読経が終わってもその男女が席を立たなかったので、上人が声を掛けると、二人は自らの正体を明かした。二人は貝喰池に天下った竜王・竜女であり、上人の読経を聞き仏法のありがたさを知ることが出来たと言う。そこで上人が竜王に竜道、竜女に戒道の名を与えると、二人は風水の災厄から信者を守ることを約束し、龍の姿となって昇天したのである。その後、上人の庵は龍華寺と名付けられ、善寳寺となったのである。

現在でも善寳寺は龍神守護の寺として信仰を集め、特に海の守護神として漁業関係者の信仰が篤い。明治16年(1883年)に建てられた五重塔は、本邦唯一の魚鱗一切の供養塔として漁業関係者によって発願されている。

貝喰池にはそれ以外にも不思議な話が残されている。『日本の伝説4 出羽の伝説』にはいくつかの伝説が書かれている。

かつて龍神にお願いすると膳椀を人数分貸してくれたが、良からぬ者が一客を失敬したところ貸さなくなってしまったという貸し腕伝説。

日照りの時に貝喰池から水を引こうと壕を造りだしたら、村の方から火の手が見える。慌てて戻ると何事もない。それが三度続いたため、龍神様がお怒りだということで、作業を取りやめてしまった。

大干魃の時、身欠きニシンをくわえて貝喰池に入ると龍神様の怒りで大雨になるという禁を敢えて破った百姓が二人いた。しかし雨は降らず、ただ池の底に引きずられていくだけだった。村人に助けを求め、さらに善寳寺の住職が祈祷をするが、結局二人はそのまま池に沈み、7日後に死体となって浮き上がったという。

貝喰池の鯉を食べてはならないという禁を犯して、それを食べた男が熱病にかかった。死の間際、男は夢枕に龍神様が立ってお叱りを受けたと言って成仏したという。

このような不思議な伝承を持つ貝喰池であるが、平成の世になって、突如脚光を浴びることとなった。平成2年(1990年)頃、写真週刊誌によって紹介された“人面魚”である。頭部の模様によって人の顔に見える鯉なのであるが、大ブームとなった。現在でもその模様を持つ鯉が貝喰池には存在する。

<用語解説>
◆妙達上人
生没年不明。法華経の行者。『今昔物語』には、天暦9年(955年)に急死するが、7日後に蘇生。その間、閻魔大王から勧善戒悪をおこなって衆生を救うよう言われたとされる。

アクセス:山形県鶴岡市下川