湖山池

【こやまいけ】

湖山池は周囲約18km、「池」と名が付くものの中で日本最大規模を持つ。元々は日本海に面した入り江湾であったが、砂の堆積によって海と分断され湖沼となったものとされる。しかしこの池には“長者伝説”の中でもひときわ有名な湖山長者にまつわる伝承が残る。

湖山長者はこの辺り一帯で一番の大金持ちであり、1000町歩もの田んぼを所有していた。そして毎年のように、近在の者をかき集めて1日で田植えを済ませてしまう習わしであった。ある年のこと。いつものように順調に田植えがおこなわれていたが、子供を逆に背負って歩く猿があぜ道を行き来するのに大勢の者が見とれてしまい、かなり遅れを取ってしまった。もう日没になろうとしているのに、まだ田植えだけは終わらない。この様子を見ていた長者はお気に入りの金の扇を持ち出すと、太陽を招き戻したのであった。これによって無事に田植えを日没までに完了させることが出来たのである。

そして翌日、長者が田んぼへ行ってみると、田んぼは消えてなくなって、代わりに大きな池が出来ていた。人々は、長者が太陽を呼び戻した罰として池になってしまったのだと言い合った。その池が湖山池なのである。

湖山池には大小いくつかの島がある。その中に猫島と呼ばれる小島があり、そこには猫薬師というお堂がある。この猫薬師も湖山長者にまつわる伝説である。

かつて湖山長者が祈願していた薬師如来があったが、近在の者が堂を建てて浄西坊という者がお勤めをしていた。ある時、仏様の下の方に光るものがあったので調べてみると、赤毛の猫のミイラが出てきた。その猫の目が光っていたのである。さらにその夜、浄西坊は猫の夢を見る。

夢に出てきた猫は、自分が湖山長者の飼い猫であったこと、そして長者の田んぼが一夜にして池にかわった時に溺れ死んでしまったこと、さらにはその死骸が小島に打ち上げられて干涸らびてミイラになり、そのためにその小島が猫島と呼ばれるようになったことを告げた。猫は長者から信心することを教わったことで、動物の身でありながら仏になることを許されたので、この薬師如来にお仕えして人々に利益を授けたいとも言ったのである。

浄西坊はここで夢から覚めると、以前に堂に住みついた赤毛の猫のことを思い出した。その猫は人間のように薬師如来に手を合わせていたが、それが湖山長者の愛猫の霊であり、今度はミイラとなって現れたのだと悟ったのである。そこでミイラを丁重に厨子に収めて、薬師如来と共に祀ったのである。

これ以降、この薬師如来は“湖山の猫薬師”と呼ばれるようになった。このお堂の護符は鼠封じに効くとされ、また失せ物がある時は祈祷してもらうと良いとされている。

<用語解説>
◆長者伝説
貧しい者が仏の加護などで富裕となる話。また逆に富裕の者がふとしたことから没落していく話の総称。湖山長者の伝説は、長者の驕りによって没落する話の典型例である。長者が太陽を呼び戻すというパターンは、音戸ノ瀬戸での開削工事での平清盛の伝説にも見られる。

アクセス:鳥取県鳥取市湖山池