いぼとり石

【いぼとりいし】

金沢一の観光名所である兼六園の南に隣接する金澤神社。その鳥居のそばにある放生池のほとりに、いぼとり石がある。駒札があるのでそれと判るが、なければただの庭石としか見えない。

この石は元からこの地にあったわけではない。この石は、はじめ能登鹿島郡町屋村(現在の七尾市中島町屋)にあったが、前田家12代藩主夫人が兼六園の梅林近くに取り寄せ、さらに現在地へ移動させたものである。金澤神社によると、この町屋村には“いぼ池”という名の池があり、そこの石でこするとイボが取れるという言い伝えがあるらしい。

このいぼとり石は一抱えほどの大きさで、表面が滑らかであり、本当にイボを取るためにこすり続けられているのではないかと思わせる雰囲気がある。それを裏付けるような話が、明治27年(1894年)に出された『金沢市内独案内』という書籍に残されている。とある遊郭の女郎の陰部にイボが出来た。困り果てて、いぼとり石で一両回こすってみると、イボは跡形なく取れてしまったという。金澤神社周辺は、明治7年(1874年)に兼六園が公園として開放されるまでは一般人が立ち入ることが禁じられていた場所であるので、この話が事実として成立するためには、明治以降に起こったとされなければならないはずである。つまりこのイボ取り信仰は明治期まで続いていたとみなしていいだろう。

<用語解説>
◆金澤神社
創建は寛政6年(1794年)。11代藩主・前田治脩が兼六園内に藩校を設立し、家祖である菅原道真を祀ったことから始まる。12代藩主・斉広の時に火難除けなどの神も合祀した。歴代藩主が兼六園散策の折りに藩内の安寧を祈願したとされる。兼六園開放までは、年2回の例祭の時に婦女子のみ参拝を許されていた。

アクセス:石川県金沢市兼六町