太郎淵

【たろうぶち】

「淵」と名が付いているが、現在は改修工事の結果、池のようなものになってしまい、さらに様々な施設も加えられて、全くの公園のようになってしまっている。

案内板によると、この淵には太郎河童が住んでおり、女性が洗濯などで川辺にしゃがみ込むと、水面から顔を覗かせて腰の辺りをじーっと見ていたという。また下流に住んでいる女河童に好かれており、言い寄られていたともいう。まさに好色そのものである。

しかしこれだけでは済まない。案内板に参考的に掲示されている『遠野物語』55話の中には、微笑ましさの欠片すら微塵もないような凄まじい話が書かれている。

……松崎村の川べりの家には、二代続けて河童の子を孕んだところがある。生まれた子は醜悪で、切り刻んで一升樽に詰めて土中に埋めたという。

女の婿の里である主人の話によると、ある時、女が汀で川に向かってにこにことしているのを目撃した。翌日もそうであったが、そのうち夜に女の元に誰かが寄っているという噂が立った。最初は婿の不在の時だけだったが、しまいには婿と一緒の時すら来るようになった。河童の仕業と言われるようになり、一族が守ったが効果はなく、婿の母親が一緒に寝た時は金縛りに遭って、笑い声を聞くだけで何も出来なかった。

お産の時は難産となったが、馬桶に水を張ってその中で産めば易いということで試すとその通りだった。生まれた子供には水掻きがあった。この女の母親も河童の子を産んだことがあるという話である。……

<用語解説>
◆『遠野物語』
明治43年(1910年)に柳田國男が、遠野出身の佐々木喜善より聞いた地元の伝承などを編纂した、民俗学の嚆矢となる著作。自費出版で350部のみの発行であった。

アクセス:岩手県遠野市松崎町光興寺