首塚大明神
【くびづかだいみょうじん】
京都市内から亀岡へ抜ける国道9号線。その2つの町ををつなぐ境に、老ノ坂(おいのさか)峠と呼ばれるところがある。かつて本能寺の変の際、明智光秀がここから反転したという、まさに京都の西の境界にあたる場所である。
この老ノ坂峠、ちょうどトンネルの手前あたりに、ほとんど気づかぬぐらい細い間道が9号線から伸びている。大型車はまずは入れないだろうというほどの道である。その道を通り、いかにも谷間の農家が点在する景色を両脇に見やって、数百メートル入った突き当たりに首塚大明神がある。
この大明神周辺は美しく整備されている。というよりも、すべてが新しいものでできていると言うべきであろう。碑に刻まれた文言を読むと、どうも昭和60年頃に宗教法人として認可されている。
しかし、この首塚にまつわる伝説は非常に古い。その名のごとく、ここにはある者の首が埋められているという。実はこの“首”こそ、大江山に住んでいた【酒呑童子】の首なのである。
源頼光と四天王は無事に酒呑童子を討ち果たし、その首を持って京の都に凱旋することになった。そしてこの境界の老ノ坂峠で休んでいた時、鬼の首は不浄なので都に入れるなと子安地蔵のお告げがあった。四天王の一人、坂田金時はそれを無視して持ち上げようとしたが、どのようにしても首が持ち上がらない。仕方なく、ここに酒呑童子の首を埋めて塚を作ったのが始まりという。
酒呑童子は頼光に首を切られる時に今までの前非を悔いて、首から上に病ある者を助けると約束したという。それ故、この大明神は首から上の病(頭の悪いのも含まれるみたいだ)に霊験あらたからしい。
<用語解説>
◆酒呑童子
史上最も有名な鬼とされる。越後または近江の出身と言われ、大江山に居を構えて、たびたび都へ現れて略奪を繰り返した。そのため源頼光と四天王によって倒された。
◆大江山
酒呑童子が住んだ大江山は、一般に現・福知山市にある大江山とされているが、都へたびたび出没している点を考えると距離的な問題がある。そこで山城と丹波の境界である大枝(おおえ)こそが、酒呑童子の本拠ではないかという説も有力となっている。
◆坂田金時
源頼光四天王の一人。幼名は金太郎。足柄山で生まれ、鉞をかついで、熊と相撲を取った怪力の童子とされる。頼光に見出されて四天王に加わる。上記の逸話は、金時の生みの母親が山姥であったという伝承に由来していると考えられる(山姥もまた鬼の能力を持つ異形の存在)。
アクセス:京都市西京区大枝沓掛町