おむつ塚
【おむつづか】
川沿いに広がる桃畑の一角に、石の地蔵が寄せ集められたような塚がある。これが“おむつ”という名の女性を祀ったおむつ塚である。今でも7月15日にこの塚の前で法要がおこなわれているという。
かつてこの地には、よそから嫁に来る者は前もって地頭(地主)に挨拶に行くという習わしがあった。おむつもそれに従って地頭の屋敷へ挨拶に行った。この土地の地頭は好色で、美しいおむつを見ると、手籠めにしようと言い寄った。おむつは抵抗するが、地頭はおむつを軟禁して身を任すことを強要する。だがおむつが拒絶し続けたために、地頭は拷問に掛け、ついには毒虫などと共に生きたまま土中に埋めてしまったのである。
帰ってこないのを案じたおむつの母親は地頭の屋敷へ赴き、そこで無礼があって手討ちになったと知らされる。しかし事の真相を悟った母親は、娘の埋められた場所へ行って一掴みの栗の実を撒くと、地頭への呪いの言葉を吐いて絶命した。
この直後から地頭の周囲には怪異が起こり、とうとう家人や身内を斬り殺し、自らも狂死してしまった。そしておむつの祟りを恐れた子孫は塚を建てて、おむつの供養を執りおこなったのである。しかし明治の終わり頃に、身内同士の財産をめぐる争いから刃傷沙汰を起こして、一族は絶えてしまったという。
さらに一丁田中にある陣屋(田安陣屋)跡の屋敷では、深夜に寝ていると、天井が落ちてくるという怪異が「おむつの祟り」として、大正の頃までまことしやかに噂されていたという。
アクセス:山梨県山梨市一丁田中