鯨墓

【くじらばか】

長門市仙崎から橋を渡り、青海島(おうみしま)の東端まで行くと、古式捕鯨が盛んであった通(かよい)という漁港に着く。その少し高台になった、清月庵観音堂の境内に鯨墓がある。

元禄5年(1692年)に建てられた墓には、明治の初め頃までに捕らえられた鯨の胎児が約70頭ほど埋葬されている。墓の願主は、この地の捕鯨の組頭3名。そしてこの墓を建てるように進言したのは、近くにある向岸寺の5世住職・讃誉上人であったという。

この鯨墓には「南無阿弥陀仏」の六字名号の下に次のような文言が刻まれている。

業尽有情 雖放不生 故宿人天 同証仏果
(前世の因縁で宿業が尽き果てて捕らえられた鳥獣は、放してやったところで生きてはゆけない。故に成仏できる人間の中に取り入れられて、同化して仏果(成仏)をするのがよい)

生活のために鯨を捕らねばならぬ、しかしそのために罪のない胎児までも殺生することを悲しみ、人に等しい弔いの気持ちを示して成仏を願う文言であると解釈したい。

この鯨墓建立に寄与した讃誉上人が住持を務めた向岸寺には、この鯨墓と同じくして作られた鯨位牌、捕らえた鯨に戒名を与え記載した鯨鯢過去帖が存在する。そして明治以降捕鯨が廃れた(一説ではアメリカなどの捕鯨船が日本近海で乱獲したためと言われる)後も、毎年鯨のために回向をおこなっている。

アクセス:山口県長門市通