鯢大明神
【はんざきだいみょうじん】
湯原温泉の旅館街から少し離れたところに、湯原オオサンショウウオ保護センター(はんざきセンター)がある。そのそばにあるのが鯢大明神である。
鯢はオオサンショウウオの別名である。オオサンショウウオは体長が1mを越すものも多く(センター内には1.6mの剥製が展示されている)、世界最大の両生類とされる。また寿命も人間並みはあり、中には100年以上飼われた記録も残る。鯢という名は、その生命力の高さから、半分に裂かれても生きているという意味が由来であると言われている。外見の異様さも相まって、ある種の化け物じみた雰囲気があるのは間違いない。
日本で唯一オオサンショウウオを祀る鯢大明神の創建の伝承も、化け物退治から始まる。
湯原の町を流れる旭川の、現在祠がある場所あたりは龍頭ヶ淵と呼ばれていた。この淵には、長さ三丈六尺(約11m)胴回り一丈八尺(約6m)という巨大な鯢が住み着いており、通りがかった牛馬や人を引きずり込んで食っていたという。文禄元年(1592年)頃のこと、近在の三井彦四郎という若者がこの化け物を退治しようと、短刀を口に咥えると淵に飛び込んだ。やがて川の水が赤く染まり、鯢が浮かび上がってきたと思うと、その腹を割き破って彦四郎が無事な姿で現れた。見事に化け物を退治したのである。
しかしそれからというもの、奇怪な噂が流れるようになった。夜中になると、彦四郎の家の戸が叩かれ、号泣する声が聞こえるというのである。村人はそのあやかしを恐れて、だんだんと三井家と疎遠になっていった。さらに三井家の人々も次々と亡くなり、ついには一家は断絶してしまった。さらに村にも様々な災いが起こり、ここに至って村人は退治した鯢の霊を慰める必要を感じ、淵のそばに祠を建てて鯢の霊を祀ったのである。これが鯢大明神のはじまりである。そして三井彦四郎の墓も近くに建立されている。
現在でも湯原ではオオサンショウウオが生息しており、保護されたものはオオサンショウウオセンターで飼育されている。また、8月8日には“はんざき祭”が催され、化け物鯢を模した山車が温泉街を練り歩く行事がある。
<用語解説>
◆湯原温泉
美作三湯の1つ。共同露天風呂である“砂湯”は西の横綱と格付けされるほどであり、古来よりの伝統を持つ。
アクセス:岡山県真庭市豊栄