猪目洞窟

【いのめどうくつ】

昭和23年(1948年)に漁港の改修工事をおこなった際に、堆積物を取り除いて発見されたのがこの猪目洞窟である。考古学的には弥生時代の人骨や交易に使われていた装飾品などが発掘され、文化財としても貴重なものである。だが、伝承の世界においてもこの洞窟は特筆されるべき存在なのである。

『出雲国風土記』によると、この洞窟は“磯より西の方に窟戸あり。高さ広さ各六尺許なり。窟の内に穴あり。人入ることを得ず。深き浅きを知らず。夢にこの磯の窟の辺りに至る者は必ず死ぬ。故、俗人、古より今に至るまで、黄泉の坂、黄泉の穴と号くるなり”と記されている。つまりこの世とあの世を結ぶ境界、 そして“死”を意味する場所なのである。

洞窟は、はっきり言って相当な大きさである。入り口は縦横30メートルとあるが、実際に当初の目的通り漁船や 漁具を置く場所になっている。しかしその奥は、子供がようやく入れるかどうかというほど狭く、そして漆黒の闇が支配している。まさに“死の世界への入り口”としての圧倒的な存在感である。(黄泉の国への入り口として「黄泉比良坂」があるが、この猪目洞窟の方が断然恐怖感がある)

洞窟の奥は約50メートルの奥行きになっているらしい。だが、ある噂ではさらに奥へ入っていくことができ、とある場所へ出ることができるという。

<用語解説>
◆『出雲国風土記』
和銅6年(713年)に編纂の命があり、天平5年(733年)に完成。最も完全な形で後世に伝えられた風土記である。猪目洞窟については宇賀郷の項に記載されている。

アクセス:島根県出雲市猪目町