石のせ大黒

【いしのせだいこく】

北野天満宮にある三光門の向かって右手、対面するように並んだ灯籠がある。その一基の灯籠の横には賽銭箱が設けられている。そばに行くと、台座部分におなじみの大黒様が刻まれている。だがよく見ると、顔の部分がおかしい。顔の下半分に大きな穴が2つ開いている。これが金運のご利益があるとされる“石のせ大黒”である。この大黒様は「天神さんの七不思議」として、北野天満宮でも公式に認められている存在であるが、他の6つの不思議とは違い、天神信仰や北野天満宮の来歴自体と関わりあいがほとんどない(天神様を信仰する者が寄進しているという点では、天神信仰であると言えるかもしれないが)。

この灯籠には【安政二歳(1855年)十月吉日】【大黒組】という文字が刻まれており、かつて河原町正面辺りで質屋を営んでいた大黒屋をはじめとする質屋の組合が安政2年に寄進したものであるとされている。当然ではあるが、最初から信仰の対象となっていたわけではない。ところが、いつしか金運のご利益があるといわれるようになり、それが現在でも連綿と続いている。お願いの仕方は至って簡単である。大黒様の顔の下部分にある大きな穴に落ちないように小石を置き、成功したらその小石を財布に入れて持ち帰ればよいというもの。ただ、この穴は長年の磨滅によって表面はつるつるで、しかも底が平らではなくて下に傾いているため、小石を置くのはかなり難しいらしい。ちなみにこの穴であるが、大黒様の口であるとか、あるいはえくぼ、鼻の穴と言われているが、真相ははっきりしていない。誰言うともなく始められた秘密のお願い事の儀式が、人口に膾炙するまでになった時には、既に原形を留めていないものになっているような感じなのだろうか。

<用語解説>
◆天神さんの七不思議
北野天満宮の公式サイトによると、
・影向松
・筋違いの本殿
・星欠けの三光門
・大黒天の燈籠
・唯一の立ち牛
・裏の社
・天狗山 とされる。

アクセス:京都市上京区馬喰町 北野天満宮境内