【いわとおちばじんじゃ】
国道162号線(周山街道)を清滝川上流に向かい北上すると、やがて小野という集落に入る。京都の市街地からは10kmを超えるところにある。この小野の集落の中心地にあるのが、岩戸落葉神社である。この神社は元々、小野上村の氏神である岩戸社と小野下村の氏神である落葉社が拝殿と鳥居を共有して並んで祀られている。
岩戸社の祭神は、稚日女神(わかひめのかみ)、罔象女神(みづはのめのかみ)、瀬織津姫神(せおりつひめのかみ)の三柱。いずれも水に関わる神として知られた存在である。また“岩戸”の名称であるが、『日本書紀』において、天照大神が天岩戸に籠もる原因となった事件で命を落としたのが稚日女神とされており、その関連から名付けられた可能性が考えられる。
一方の落葉社は、元は『延喜式神明帳』にある“堕川(おちかわ)神社”ではないかとの説があり、やはり最初は川の合流する地点に建てられた社であると考えられる。しかし現在の祭神は落葉姫命とされている。
落葉姫命とは『源氏物語』に登場する、朱雀院女二の宮(落葉の宮)のことである。全くの架空の人物であるが、物語では夫の柏木が亡くなった後に、この小野郷に母と共に隠棲する設定となっており、その縁でいつしか落葉社の名と共に祭神として祀られるようになったのであろうと推察される。“落葉の宮”という名は、夫である柏木が詠んだ歌にちなむものであり、“宮の異母妹である女三の宮よりもつまらない女”という蔑みの意味が含まれている。柏木にとって愛すべきは女三の宮であって、その姉との婚姻は柏木本人が望んだものであっても決して満たされるものではなかった。そして宮にとっては全く意に沿わない婚姻であった。さらに小野郷隠棲後には、亡き夫の親友であった夕霧に見初められ、本人の意志に反して半ば強引に再婚のためにこの地を離れることになる(付け加えるならば、共に隠棲した母の一条御息所は、夕霧が娘を弄んでいると思い込み、恨みを残してこの地で没している)。物語では運命に流されるまま生き、自らの身の置き場のない半生を強いられた落葉の宮であったが、隠棲した小野郷の産土神として祀られることで、ようやく安住の地を見つけたかのように感じるところがある。
岩戸落葉神社の境内には、4本の銀杏の巨木がある。晩秋にはそれらの木々が葉を落とし、境内一面が黄色い絨毯で敷き詰められたかのような幻想的で美しい様相を見せる。まさに“落葉の映える”場所であり、京都屈指の隠れた紅葉(黄葉)の名所である。
アクセス:京都市北区小野下ノ町