【つるかめじんじゃ】
姫路と松江を結ぶ出雲街道は途中、津山城下を通過している。その津山から松江に向かう次の宿場が坪井である。さらに西へ進むと鶴坂峠という小さな峠があるが、その近くに鶴亀神社という小祠がある(現在は中国自動車道の高架橋のたもとになる)。このめでたい名を持つ社であるが、実際には真逆の悲劇的な伝説が残されている。
天正年間(1573~1593年)の頃、三星城主(現・美作市)後藤氏の家臣で鶴之丞という若侍とその妹の亀があった。亀は近隣でも有名な美人であったが、18歳の時にとある中間男に懸想され、兄の不在に不意を突かれて連れ去られてしまった。気丈な亀は隙を見て中間男の耳を噛み千切ったが、男はそれに逆上し、その場で亀を殺してしまうのである。
やがて事の次第を知った鶴之丞は妹の無残な遺体を見つけ、その口に男の耳があったことを手掛かりとして、仇討ちの旅に出た。そして出雲街道を通りがかった際、「坪井の七森神社の奉納相撲で、片耳の男が五人抜きをした」という話を耳にする。話を聞くと、自分が追い求めている男と人相が似ている。急いで坪井へ向かったところ、鶴坂峠でばったりとその片耳の男と出くわしてしまった。そこで妹の仇と刀を抜いたが、鶴之丞は元より非力な若侍。あっという間に返り討ちに遭ってしまったのである。
坪井の人々はこの憐れな兄妹のために一祠を築き、祀ったとされる。そしてこの兄妹を殺した中間男は、一説によると、その場で大勢の人々によって殺されたとも伝わる。
アクセス:岡山県津山市坪井下