【そうりんじ ななふしぎ】
雙林寺は曹洞宗の名刹で、宝徳2年(1450年)に山内上杉の家宰で上野守護代の長尾景仲が開基、名僧として名高い月江正文禅師が開山した。創建時には禅師を慕う修行僧が多数集まり、その数2000人を超え「雙林の水を飲まざる者は禅僧にあらず」とまで言われたという。さらに江戸時代には曹洞宗の僧禄職に就き、上野だけではなく信濃・越後・佐渡の総取締を任せられるほどの勢力を持った。
多くの学僧が集う大寺院では大抵“七不思議”と呼ばれる怪異譚が残されているが、雙林寺にも御多分に漏れず七不思議が残っている。
1.山門小僧と総門の鶴
左甚五郎作とされる童子像が夜な夜な抜け出して修行僧に禅問答を仕掛けるため、住職が片手を切り落としたところ二度と現れなくなったが、片手のままとなってしまった。また鶴の彫り物も門を抜け出して悪さをするため、こちらは猟師が鉄砲で撃ったところ足に弾痕が残ったという。
2.忠度桜
月江禅師の夢に平忠度が現れ、一の谷で討死の際に辞世の句を詠もうとしたが最初の“行き暮れて”が出たところで討たれたため、残りを付けて欲しいと願った。住職が“花に心はなかりけり”と続けると亡霊は満足して桜の枝の鞭を境内に挿した。それが成長した桜の木が本堂前にある。
3.鏡の井戸
この井戸を覗き込んで、もし顔が映らなければ、即刻死ぬと言われる。
4.龍神水(蛇頭水)
月江禅師の徳を慕った龍神が湧き出させた泉水であるが、寺に在籍する者の数に合わせて水量が増減し、人が増えれば水も増えたとされる。
5.千本樫
1つの株から多くの枝が分かれて生えた巨木。枝を払うと住職や寺に災難が降りかかるとされる。
6.開山の繋ぎ榧
開山の月江禅師が榧の実で出来た数珠を持参し、庫裏の裏に植えたところ巨木となった。この木に成る実には、数珠にした時に開けられた糸の穴があるという。
7.開山の一つ拍子木
開山堂に置かれた拍子木が、寺に変事が起こる直前の夜中に突然鳴るという。
一つずつの不思議を取り上げればあまり特異ではないものばかりであるが、雙林寺の場合、これらの七不思議が全て実際に存在する点で非常に面白い存在である(写真では一つ拍子木がないが、開山堂内に現存することは確認済みである)。
アクセス:群馬県渋川市中郷