【たつえじ】
四国八十八ヶ所霊場には、各国ごとに1つずつ「関所寺」と呼ばれる寺院がある。邪な心のある者、罪科のある者は、ここに至ると御大師様(弘法大師)からお咎めを受け、先に進めないとされている。その一番最初の「関所寺」が立江寺である。この寺にはその仏罰の凄まじさを示す物語が残されている。
石見国浜田に生まれたお京という女は、桜井屋銀兵衛の娘であったが、16の時に大阪へ芸妓に売られた。そこで要介という男と懇ろとなり、22の時に大阪を抜け出して故郷の浜田に戻り、親の許しを得て晴れて夫婦となったのである。
ところがお京は性悪であったのか、やがて鍛冶屋長蔵という男と密通を重ねるようになった。それを知った要介は激怒し二人を折檻するが、お京は長蔵をそそのかして要介を打ち殺してしまう。進退窮まった二人は心中するつもりで讃岐国の丸亀へ逃れるが、結局逡巡して死にきれず、結局後生のためにとそのまま四国巡礼の旅に出るのであった。
立江寺にやって来た二人は早速本尊の地蔵尊を礼拝しようとした。その時突然お京の髪が逆立って鐘の緒に巻き付くと、その身体を引きずり揚げられてしまったのである。驚きと痛みに泣き叫ぶお京を見て長蔵が慌てて住職を呼んだ。この光景を見て院主は、お京に罪科の有無を問い質した。それに応えて、お京はここに至るまでの悪事を全て懺悔した。すると鐘の緒にしっかりと髪が巻き付いたまま、べりべりとお京の頭の皮が剥がれていったのである。辛うじて命だけは救われた両名は改心し、発心出家すると、立江寺の近くに庵を設けて、生涯その地で地蔵尊を礼拝したという。
現在、立江寺の境内一画に“黒髪堂”と呼ばれるお堂がある。その中にはお京の髪が巻き付いたままの「肉付鐘の緒」が安置されており、今なお仏の戒めとして残されている。寺伝によると、この「肉付鐘の緒」は享和3年(1803年)の春に当寺に納められたものであるとされる。
<用語解説>
◆関所寺
四国八十八ヶ所霊場のうち、立江寺(19番:徳島県)、神峰寺(27番:高知県)、横峰寺(60番:愛媛県)、雲辺寺(66番:香川県)がそれに当たる。
アクセス:徳島県小松島市立江町若松