【さわらいけ】
1984年(昭和59年)、椹池の水が前触れもなく干上がったことがある。その時に池の中ほどに見つかったのが、一本の剣。長さ約80cmのそれは、長い間池の底に突き刺さっていたらしくすっかり錆びて、柄も途中で折れていたが、紛れもなく何者かが突き刺したものであるのは間違いなかった。そして約10年後、テレビ番組で紹介された時にその剣の錆の一部を分析したところ、成分は鉄で、奈良時代以前に作られた剣であるだろうとの結果が出た。ただそれ以上の進展はなく、今でも池の水の中に鉄剣は刺さったまま残されているらしい。
この謎に満ちた椹池であるが、韮崎市の南部にある甘利山の中腹、標高1230mの位置にある。この池には、鉄剣とは全く関係のない、大蛇にまつわる奇怪な伝説が残されている。
近隣の村に下条婆(げじょうばんば)という老女が住んでいた。ある時、突然額に2本の角が生えてきて、その姿に恥じ怖れた婆は椹池に入水。そしてそのまま大蛇に化身して、池の主となった。
天文年間(1532~1555)、この一帯を治めていた甘利左衛門尉の2人の息子がこの池で鮒を釣っているうちに池にはまってしまった。ところがいくら探しても遺体が出てこない。左衛門尉は池の主である大蛇が息子たちを飲み込んだに違いないと思い、領民に大蛇退治を命じたのである。領民は総出で池の周りにある椹の木を伐って池に投げ込み、さらに石や汚物まで投げ入れた。その甲斐があってか池の主はついに堪らず、赤牛に化身すると池を飛び出し、山の頂上を越して大笹池に逃げていったのである。さらに領民が追い詰めたため、池の主は大笹池を捨てて、川沿いに山を下って御勅使川のそばにある能蔵池まで逃げた。そしてそこから先の大蛇の行方は分からないという。
<用語解説>
◆能蔵池
南アルプス市野牛島にある、伏流水を貯めた溜池。こちらにも赤牛が登場する伝説があり、村人に椀を貸したりしていたが、約束を破る者があるためにこの池を飛び出して、椹池へ去ってしまったという。
アクセス:山梨県韮崎市旭町上條北割